2010年6月11日金曜日

3D 規格の多様性??

次なる流れは「3D」へ - パナソニック/ドルビーの3D方式のメリットとデメリット 折原一也2009 International CES の会場で行われていた展示を俯瞰すると、オーディオビジュアルの新トレンドとして、3Dの存在感が非常に大きいと感じる。日本では、劇場の3D上映はさほど多くなく、3D化によるメリットは実感が湧きにくいが、米国ではデジタルシネマの普及も後押しして、次なる視点はBD規格に3Dを入れることで、家庭用3Dの普及を進めることに向き始めている。そこで今回は、パナソニックでBDの規格化を進める担当者の話を聞き、ハリウッドによる3Dを巡る状況をまとめた上で、3D収録技術の規格化を目指すパナソニック、ドルビーによる2方式のメリット・デメリットをまとめていきたい。

パナソニックの技術開発陣にお話を伺うことができた

まずハリウッドにおける3D映画の流行の背景から振り返っていこう。

3Dの映画と聞くと、赤青フィルムのメガネを使用する方式を連想する方も多いだろうが、現在の3Dの流行は2005年公開の『チキンリトル』で採用された「Real-D」方式のブレイクに始まっている。当時、映画館の設備投資の流れとしてフィルムからデジタル配信によるプロジェクターへと移行を始めており、3D上映の設備面での条件が揃っていた。そして『チキンリトル』を皮切りに3D制作の映画は、同作品の2D上映の3倍程度の売り上げ(3D上映はチケット代が1.5倍程度、集客は2倍程度)と好成績を上げるようになり、ビジネス的にも成功を収めている。

3Dは劇場のデジタルシネマへの移行期にあって設備投資を後押しする役割も果たしており、時流にあった技術として拡大を続けている。結果として米国におけるReal-D方式対応の映画館は06年末で220劇場、07年末時点で1,100劇場と急拡大している。日本では3Dへの流れは遅いものの、ワーナー・マイカル・シネマズやバルト9をはじめとして、シネコンや新設映画館も3D上映設備を備えるようになった。制作側の立場としても、ディズニーは向こう2、3年のうち、130ラインのうち16本を3D制作すると発表しており、コンテンツ側も3D重視の路線へと舵を切り始めた。また、名作アニメ『トイ・ストーリー』の1、2も3D化のリメイクを始めるなど、3D対応作品の準備も進んでいる。

もっとも、制作コスト2~3割増ともいわれる3D映画でビシネスを成立させるためには、映画一本の売り上げの5割を占める家庭用パッケージビジネスでの販売も見込まなくてはならない。そこで、パッケージビジネスの視点からDVDからの移行を目指し、BD-JavaやBD-Liveなど新たな付加価値を作ろうとしていたBDへと白羽の矢が立てられたのだ。

民生の3Dへの上映技術はIntenational CESの展示で見られるようにまだ発展の余地のあるものだが、パナソニックはキーノートスピーチでもメッセージを寄せていたジェームズ・キャメロン監督(映画『タイタニック』の監督としても知られる)を始めとする監督へのデモと、ハリウッドの3Dクリエイターの集まるイベントでの出展などを通じてハリウッドの理解を獲得している。

3D映像を収録するBD規格の策定という視点から見ると、3Dは左右の眼の映像をディスク1枚に収録するので、情報量は単純計算で2倍になるが、相関性を使った圧縮を用いれば1.3倍程度で収録できる。このため50GBのディスクへの収録も可能で、データ伝送も60p対応のHDMI端子を使用すれば問題なく行える。

これら諸条件が揃った上で、次なるステップとして民生への進出、BDへの収録へと進もうとしているのである。

現在、BDへの3D映像収録を目指す方式にはパナソニック、ドルビーの2方式が存在している。それぞれの特徴を解説していこう。

●パナソニック方式は3D向けにフルHD映像を2ch収録して再生

パナソニックとドルビーは、3Dの映像をどのように民生のBDへと持ち込もうとしているのだろうか。

蓄積デバイス事業戦略室室長の小塚雅之氏 パナソニックAVCネットワークス社 技術統括センター 高画質高音質開発センター 末続圭介氏

パナソニックの考え方は、右と左で撮影する映像をそのままの形でディスクに収録して再生する「フルHD×2ch フレームシーケンシャル方式」による再生方法だ。

3Dの映像と言っても、その中身は右目用、左目用の1,920×1,080のフルHD映像が別々に存在しているものと考えて良い。これを前提として、BDのディスクにフルHD映像を2ストリーム収録する方法を開発して、BDプレーヤーにも2ストリームの映像を3D用に同時出力する機能を実装。これを3D技術向けに拡張を施したHDMI端子を通してテレビに伝送し、フレームシーケンシャル表示による3D対応のテレビで出力する。つまり、BD規格、BDプレーヤー、HDMI規格の3つに新規格を要求するのがパナソニックの方式だ(テレビは当然のことながら規格には含まれないが、規格に対応したものが新たに必要となる)。

パナソニック方式のメリットは、3Dの右目用、左目用のフルHD映像をそのまま収録して再生する、劇場と同じ手法を取ることにある。これは次に紹介するドルビー方式と比較した上でのメリットとなり、フルHD映像を劣化なく収録できるので画質に優れる。

パナソニック方式のデメリットは、BD規格、BDプレーヤー、HDMI規格、テレビのすべてに新しいものを要求することにある。BD規格は当然としても、現行のBDプレーヤーを使用できないのは残念に感じるかもしれない。ただし、パナソニックのデモは再生のみであれば現行機の改造(PinPの機能のためBDプレーヤーは2ストリーム処理機能をもともと持っている)でも対応できる範囲で、大きなステップアップを求めるものではない。また、HDMI規格は2009 International CES ですでに3D拡張を発表している。

つまり、規格の拡張とBDプレーヤーの買い換えは必要なものの、今年中に行えるような比較的小さなステップアップで最高の画質を追求する方式が、パナソニック方式だ。

●ドルビー方式は3D向け映像を合成して現行BDプレーヤーで再生

好対照の考え方を示したのが、ドルビーによる3D方式だ。

まず、ドルビーの3D規格と聞くと、劇場に導入されているものをイメージするかもしれないが、民生と劇場は基本的に別のものと考えてほしい。

3D映像の表示には、先に説明した通り右目用/左目用の映像を別々に用意する必要がある。ドルビーの方式では、左目用/右目用のコマを合成して1コマとして、市松模様のように上下左右交互(チェッカーボード方式)で1ストリームで収録しておく。同社では、この合成とエンコードにドルビーの技術を用いることで、効率的に行うことができると説明している。そして再生には現行のBDプレーヤーをそのまま使用し、HDMI規格も現行のものを使用する。ただしテレビにはドルビーの方式に対応したものが必要になる。

ドルビー方式のメリットは、BD規格、BDプレーヤー、HDMI規格に全く手を加えないことにある。このため、BDへの規格化を待たなくても、テレビさえ対応すれば再生が行える。実際に同社は、現行のBDプレーヤーに三菱のDLPリアプロジェクションテレビ、ヒュンダイのLCD液晶モニタを組み合わせてデモを実施していた。

ドルビー方式のデメリットは、画質の劣化にある。元のフルHDの映像から1コマに合成するため、単純に考えると画素数は半分になる(ドルビーによると視覚上の特性で画素数が半分になっても7割程度の画質は実現できるとしている)。

つまり、画質は劣化するものの、テレビ以外はすべて現行の規格に準拠することで既にBDプレーヤーを購入した人も買い換えずに使える方式がドルビー方式ということになる。

こうしてそれぞれの特徴を挙げてみると、両者の主張の違いが分かるだろう。パナソニックによる、最高の画質を前提として規格化を進める考えは、クオリティ面では理想の方式だ。しかし、2Dの数%に過ぎない3D作品のためにBDプレーヤーの買い換えが必要というのは、消費者にとって負担が大きい。現行プレーヤーとの互換性を重視するドルビーの考え方を現実的と支持する意見もあるだろう。また、パナソニック、ドルビー方式のいずれもテレビの買い換えは必要となるため、どうせ買い換えるなら良いものを、という考え方もあるはずだ。

パナソニックによると、BDへの規格化を2009年中には完了し、2010年よりBDでのビジネスを始めたいとしている。日本は2011年に地デジ移行を控えているだけに、それまでに買い換えを行うユーザーも多いだろう。これら対応テレビの登場も合わせて、2009年は3D対応が大きなトレンドとなっていくことだろう。

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